もう一人の逸子さんへ Ⅱ

 次に石川逸子さんと出会ったのは、40代の頃。電車の中である。当時私は、西宮の夙川から3つ目の駅にあたる塚口まで、阪急電車で通勤していた。その往復40分が忙しい私に許されていた唯一の読書の時間であった。何度かこのまま終点まで行き、最後まで手にしている本を読み通したいという誘惑にかられたが、ついにそれは一度も実行されないままになっている。『ヒロシマ連祷』(土曜美術社)『千鳥ヶ淵へ行きましたか』『ゆれる木槿花』『砕かれた花たちへのレクイエム』(花神社)『ぼくは小さな灰になって・・・。』(これは御庄博実氏との共著。西田書店)

 これらの石川逸子さんの詩集を電車の中で読み、目的の駅が来ると本を閉じて何事もなかったように立ち上がることは難しかったはずだ。駅のホームに人の群れと一緒に押し出されながら、ごくんと唾を飲み込み気持ちを切り替えていたのだろうか。

 原爆・従軍慰安婦というテーマを取り上げながら、対象一人ひとりの存在に寄り添い抱きしめ謝罪し祈る逸子さんのことばが、ひたひたと地下水のように今も染み入る。