ケンタウル祭の夜

 7月7日、今年は珍しく星が見えた。

 織姫様☆琴座のベガは東の空の中空に居るはずだった。彦星様★わし座のアルタイルは東にのぼったばかりの時刻だったと思う。しかし半月を目指す大きな月は東に輝いていたが、今夜の<噂の二人>を確認することは出来なかった。旧暦の七夕の頃になれば二人が文字通り空の主役になる。上るときはベガが先でも沈むときは二人一緒という微笑ましい瞬間も確かめてみたい。

 

 宮沢賢治が「銀河鉄道の夜」で描いた「ほんたうのさいはい」をさがしに行こうとしていたジョバンニのことを七夕の夜にずっと思っていた。

 琴座のベガは惑星ではないのでチカチカ瞬くのだが、賢治のその描写はそれだけで終わらない。

「そしてジョバンニはその琴の星が、また二つになり三つにもなって、ちらちら瞬き、脚が何べんも出たり引込んだりして、たうとうきのこのやうに長く延びるのを見ました。」となっている。星の瞬きだけでこんなに不思議な空間を描くことができるのだ。夜は今ほど明るくなく、闇が深い分夜空はもっと人間に近いものだっただろう。

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「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ。」カンパネルラが少しそっちを避けるやうにしながら天の川のひととこを指さしました。ジョバンニはそちらを見てまるでぎくっとしてしまひました。天の川の一とこに大きなまっくらな孔がどほんとあいているのです。その底がどれほど深いかその奥に何があるかいくら眼をこすってのぞいてもなんにも見えずただ眼がしんしんと痛むのでした。

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 暗黒星雲を垣間見たからと云ってジョバンニの腰が砕けたわけではない。よけいに気分が高揚し、「僕もうあんな大きな暗(やみ)の中だってこはくない。きっとみんなのほんたうのさいはいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行かう。」とカンパネルラに言う。信頼できる友と一緒に理想のために行動できることそのものが、ジョバンニにとって本当の幸せの姿だったのかもしれない。

 

 ジョバンニとの銀河鉄道の夜の彷徨は、ようやく終わった。今夜はすっきりと眠ることができるだろう。2012年、日本にはたくさんのジョバンニがいる。