詩文集「哀悼と怒り-桜の国の哀しみ」 

 石川逸子さんより御庄博実さんとの共著「哀悼と怒り-桜の国の哀しみ」(西田書店 定価1400円+税)という詩文集が送られてきた。

 石川逸子さんは私が10代30代40代の人生の節目に、その詩や文章を通して力を頂いた詩人である。ペンネームをつけるときに無断で逸子の名前をいただいた謂れがある方。

 御庄博実さんは原爆投下直後の焼けくすぶっている広島の街を友や恩師を探しまわられて被爆された医師であり、峠三吉のお弟子の詩人。「御庄博実 第二詩集」を上梓されたときに<綱出>という短歌誌に拙い書評を書かせて頂いたご縁がある。

 

 敬愛するお二人の詩人の共通するところは、魂の深さ強さ。首尾一貫して、戦争や核の犠牲で理不尽な死を死んで行った死者たち、あるいは今も生きている無名者に寄り添って詩を書きつづけておられることだ。一度芽吹いた樹の種は、周りがどんなに変化してもそこに根を張り続ける。お二人も同じだ。

 

 詩集の最初にある石川逸子さんの詩「否(ノン)A to Z」は1988年1月に発表されたものであるが、福島原発事故・そして再稼動以降の日本を予言していて慄然とする。24年前にご自身で発刊を続けておられた機関紙「ヒロシマ・ナガサキを考える」に発表された詩である。

 

 御庄博実さんの詩は、津波やフクシマについて書かれていてもすべて底にはヒロシマの原爆体験が通奏低音として流れている。ときに通奏低音では納まらない。原爆爆裂からの土煙をあげて広がる波紋と、津波の黒い潮の土煙のすさまじさが重なり、作者を突然凍らせる。

 

 アーサー・ビナード氏がこの本に熱い文を寄せている。

「もしあなたが日本を愛しているなら、この二人の詩人の声に耳をかたむけてみよう。・・・」

 

 多くの方に出会って頂きたい一冊である。

 

 

 

 

 

 

コメントをお書きください

コメント: 2
  • #1

    kyoko (火曜日, 14 8月 2012 16:01)

    朝日新聞の読書欄に掲載されましたね。図書館も早速購入してくれていたので予約しました。

  • #2

    motiduki (水曜日, 15 8月 2012 18:06)

     東日本大震災に触れて、石川さんはあとがきに「被害にあわない身が詩を書く不遜さに怯えつつ、全くの人災である原発事故をおもうと、拙い詩を書かずにはいられませんでした。」と書かれています。わたしは彼女のこうした繊細で誠実な姿勢が好きです。