さがしています

 アーサー・ビナードさんから絵本が送られてきた。「さがしています」作アーサー・ビナード。写真 岡倉禎志。発行 株式会社童心社。早く中身が見たくて玄関で封を切った。表紙に大きく「さがしています」と藍錆色で書かれていて、旧い鍵束の写真。絵本の表側の帯には・・・ヒロシマを知っているものたちがさがしていますーたいせつな人びとを、未来につづく道を~と書かれている。裏側の帯には・・・「おはよう」「がんばれ」「いただきます」「いってきます」「ただいま」「あそぼ」そのことばをかわすことができる、みんなの生活は、どこへいったのか?1945年8月6日の朝、ウランの核分裂がヒロシマでひきおこしたことは、どこまで広がるのか?ピカドンを体験したカタリベたちは、今の日本をじっと見つめているのだ。その視線の向こうにあるのは?~と書かれていた。

 

 ちょうど同人誌に送る随筆を書いていたところだった。アーサーさんが英訳した若松丈太郎氏の詩集「ひとのあかし」について。「この詩集は、若松丈太郎という福島原発30km圏内に住み、原発の地上の生き物への影響を見つめ続けてきた日本の詩人と、日本語の詩を書き、原爆についての疑問を少年時代から温めてきたアメリカの詩人による魂のコラボなのだ。」と書いていたところだった。

 

 絵本を開いてみると、ピカドンを体験したカタリベというのが、原爆資料館の地下の倉庫にあった14の遺留品たちのことだとわかった。

 最初のページには理髪店の壁で時を刻んでいた時計の写真。8時15分を指している。そのページの最後に

 

「おはよう」の

あとの 「こんにちは」を

わたしは さがしています。

 

と書かれている。

 遺留品は物なのだけれど、人々と形見たちとの暮らしの歴史がある。突然奪われた未来がある。それが詩人のことばで語られている。

 表紙の写真の鍵束は、いったいどこで誰によって使われていたものでしょう?どうか読んでみてください。絵本ですから小学生から大人までそれぞれの読み方でこの本に入ってほしい。カタリベのことばに耳を傾けてほしい。

 

 「ひとのあかし」もそうだった。アーサーさんが人や物と出会って作り上げた本にはそれまでになかった工夫や、ひとの哀しみや誇りなどたくさんの宝物が隠れている。

 アーサーさんステキな絵本をありがとうございました!