反芻

 良いコンサートに出会ったあと、そこで演奏されていた曲のさわりの旋律が、頭のなかを流れることがしばしばある。夙川沿いの木々の間を自転車で走る時や、移動中の電車のなかなどで。

 今回ユーリ・バシュメットというビオラ奏者の音に出会った。樫本大進のヴァイオリンの透明な高音に寄り添うビオラの音色は、決して出すぎず、ゆったりと才能と情熱溢れる若い奏者を支えていた。

 ヴィオラの音域は、最も人間の声の音域に近いと云われている。そういえば、耳の底で反芻するのは、バシュメットのヴィオラパートばかりである。

 6月のスケジュールに「音楽の仕入れ」と書いたのは、こういう効果を期待してのことである。「ここに詩をのせてみますか」と音楽の方が誘ってくれている。