小出裕章さんに背中を押されて詩が結実!

 詩の種を一つ抱えていた。フェイスブックの動画に送られてきた「福島では、一年間に身長が1ミリや1センチしか伸びない子どもたちが増えています。」という福島の養護教諭の言葉に衝撃を受けたことが私の詩の種の核になって育っていた。

 子育て期を振り返ると、子どもの心の成長は視覚化や数値化ができないが、柱に刻まれた背丈の伸びは一年毎に目に見え、家族で喜びを分かち合える共有財産であった。こんなささやかな家族の幸せさえも福島では奪われているのかと思うたびに、込み上げてくるものがあった。

 ただこれを詩にするにあたって、ひっかかっていたことがあった。その動画は、数日後には跡形もなく消されていた。フェイスブックは便利ではあるが、<不都合な真実>はすぐに消去されていたり、勝手に編集されたりする。私にとってあまり望ましいものでないものいがお気に入り扱いになっていたこともある。消えた動画について何も記録していなかったので、この福島からの発言の出処もわからないままであった。

 

 8月9日、小出裕章さんの講演会が大阪であった。主催は教育科学研究会、テーマは「子どもたちに伝えよう 原子力の真実」であった。小出さんは、「原子力は夢のエネルギー」ということを信じてこの道に進まれ、京都大学原子炉実験所に勤務されているが、だんだん明らかになっていく原子力エネルギーの怖ろしい危険性に真っ向から向き合い、放射線被害を受ける住民の側に立って活動されておられる原子核物理学者である。

 

 講演の後止むに止まれぬ思いで小出さんの元に駆けつけた。私は上記の福島の養護教諭のことばに衝撃を受けたこと、福島で子どもの背丈の伸びを喜ぶというささやかな幸せまで奪われている家族がいることを知った辛さ、はっきり事実関係を把握できていないことを詩にしていいのか迷っていることなどを一気に話した。小出さんはしっかりとわたしのことばを聴き取られた後に言われた。

 「一年間に子どもの身長が1ミリや1センチしか伸びないことは、今までの科学の常識では有り得ないことです。」ここでしばらく間があった。「でも、科学の常識を疑うことから科学が始まります。望月さんが、そのことに衝撃を受けられたのは望月さんの真実です。その真実から出発して詩を組み立てていかれたらいいのではないですか。」

 小出さんはわたしの愚問を真剣に受け止め真実のことばを発してくださった。

権力者は権力を行使して人に向き合う。大金持ちは、金にものを言わせて人に向き合う。知識が豊富な人は、その知識を駆使して人に向き合う。裏も表も損も得もない真実の人は、真実をもって人と向き合う。

 その日からわたしの詩の種は育って無事結実した。追って「しるし」という作品を紹介させていただきます。