マイスキーさん今度もチェロでお世話になります

 8月27日の拙ブログ「小出裕章氏に背中を押されてできた詩」を読み直し、追ってその詩を紹介すると書いていることに気づいた。

 今回その「しるし」という詩をのせてくれる曲、シューベルトの<アルペジオーネソナタ>のCDは、随分前からわたしの傍らにある。あまりに美しい曲なので時々自分の慰めのために聴いていたが、なかなか私の詩とのご縁を結ぶことはなかった。美し過ぎるゆえに出番がない幸薄い曲だった。今回その2楽章をようやく使わせていただくことになった。チェロを弾くのはもちろんミッシャ・マイスキー、ピアノはアルゲリッチ。申し分のない共演者たち!! 有難いことです。

 

 「しるし」

 ~シューベルト アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D821 二楽章にのせて~

                                  望月 逸子

五月五日

少年たちは 柱の前で<気をつけ>をし

頭に分厚い本をのせられ

神妙な顔で柱に背丈のしるしをつけてもらう

 

「剛志は八センチも伸びているぞ」

「やったあー」

「お兄ちゃんすごいなあ」

「二人とも 伸び盛りねえ」

 

柱に刻んだのは

一年間の 命のしるし

今年も伸びるぞという思いのしるし

家族がそこで普通に暮らしてきたしるし・・・・・

 

あの日

2011年 3月11日を境に

しるしを刻む柱を失った子どもたちが

どれだけ いるのか

無人となった家で

誰にもしるしを刻まれなくなった柱が

どれだけ立ちつくしているのか

 

「今福島で 1年間に身長が1ミリや1センチしか伸びない子どもたちが

 増えています!」

保健の先生が言った

 

 

取り戻さなければならないのは

「経済大国 日本」でも

「戦争ができる国 日本」でもない

 

本当にほしいのは

 

柱の木目が記憶している

輝く命のしるしだ