背筋を伸ばして時代と向き合う

あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になりました。今年もよろしくお願い申しあげます。

 

 暮から新年にかけて、普段は離れて暮らしている二人の息子家族との交流の機会があった。長男には2人、次男には1人、ようやく思いをことばにかえて伝え始めた幼い子らがいる。両親のことばかけを繰り返し耳にしながら、たどたどしく自分の言の葉にしていく過程の柔らかさと人肌の温もりを、つかの間一緒に味わわせてもらった。

 

 一方、このような繊細で大切な時期を根気良く護り育てていかなければならない大人の責任の重大さも痛感する。台所でみんなの夕餉の支度をしながらずっと気になっていた歌がある。

 

徴兵は命かけても阻むべし母・祖母・おみな牢に満つるとも

 

 これは1978年の朝日歌壇に採用された短歌で、作者は石井百代さん当時75歳。有事立法が国会で論議されていた頃の作品である。この歌を採用した選者近藤芳美氏は「『母・祖母・おみな牢に満つるとも』という結句にかけてなまなましい実感を伝えるものがある。一つの時代を生きて来たひとのひそかな怒りの思いである。」と評している。作者は戦時中、息子をお国のために差し出そうとしていた反省からこの歌を詠まれたそうである。

 

 新年の一首として相応しいかどうかは分からないが、背筋を伸ばして時代に向き合うときの力になる歌である。