陽の恵み

 寒い季節にはつい忘れがちな太陽への感謝の想い。だが冬至以降、確実に太陽エネルギーを全身で感じる度合いが強まっている。夜明けの茜色を映す湾近く、海鳥たちの黒い影が飛ぶ。正午ごろは、湾の真中に陽の銀色の反射光が大きく拡がる。昼下がりは銀色の光が穏やかな白色に変化しながら延びていく。毎年こうして新年の太陽に感謝の思いを新たにしている。

 

 久しぶりにモーツァルトのピアノ曲が聴きたくなった。ロシアのピアニストのキーシンが、天才少年と呼ばれていた頃、家族で彼の来日公演を聴きに行った。今年36歳になる長男は、当時まだ小学生。四半世紀も前のことである。キーシン少年は、右手と右足が同時に出ているのかと思うくらい強張った歩き方をし、ふさふさの巻き毛を大きく揺らしぎこちなくお辞儀をした。そんな彼のからだの使い方は、対人関係をうまくつくることの苦手な性質を物語ってい た。だが、ひとたびピアノに向き合うと、彼は別人のようになめらかでピュアな音をはじき出した。たしかあれはモーツァルトのピアノ協奏曲第12番。1楽章のピアノの出だしのスタッカートの軽やかさの印象が、まだわたしのどこかに残っているからたぶん12番なのだろう。彼があの落ち着いた2楽章をどんな風に弾いたのか仔細に思い出せないが、新春の湾に反射する午後の陽の光をみていると無性にモーツァルトのピアノ協奏曲12番の2楽章が聴きたくなり、そして<天才少年キーシン君>のことを思い出したのだ。

 

 モーツァルトも、ユリカモメも、香枦園の小さな内海のきらめきも・・・全て太陽の恵みなしには存在しない。わたしたちのすべての命の源である太陽が永遠かどうかはわからないけれど、今太陽に生かされていることに感謝することからまた1年が始まる。

 

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