湾の魂

 彼らが帰ってきた。春彼岸頃西宮の香枦園浜から忽然と姿を消し、秋彼岸が過ぎ朝夕の冷えを感じるころ、太陽がすっかり昇りきって洗濯物を干す時刻に今年初めてユリカモメの輪舞を見た。ユリカモメは、この湾の魂である。

 

 ユリカモメの居ない夏の湾は、光に満ちてただただ眩しかった。メスに勇姿を見せて惹きつけようとしているらしいが、ボラの雄が銀色に輝きながら次々に跳ねている。ウミウなどがたくさん集まってくるこの湾で、海面高く跳んで自分の存在を示すボラ。命がけの求愛である。生き物にとって種の保存以上に大切な営みはない。命をかけるに値する行為である。人間だけが、命を生み継ぎ育てることより、金儲けや権力欲を優先させる狂った目盛りをもってしまい、ついでに自然も支配できると勘違いしてしまったのだ。湾の波頭に太陽が当たると、そこだけに無数のダイアモンドをばら撒いたように光の乱反射が起きる。

 

 太陽の光が徐々にトーンダウンしていく舞台に、純白の一団が翼に光を受けて舞う。秋はユリカモメの群舞とともに急速に冬に近づいていく。いいかげんに人間が傲慢な勘違いから目覚めないと、もっともっと大変なことが起きるだろう。

コメントをお書きください

コメント: 2
  • #1

    TE-2 (月曜日, 06 10月 2014 17:44)

    ユリカモメ。久しぶりに彼らに会いたいです。

  • #2

    Ituko (土曜日, 11 10月 2014 14:13)

     寒くなればなるほどユリカモメは元気を増して飛びます。いつでもユリカモメに会いにきてください。