<海の夕映え>

 秋が深まると日毎風景の色彩も濃くなる。今年は彩の移ろいをゆっくり味わわせていただいた。陽の光を一番強く受ける桜木の天辺から紅葉が始まり、風当たりの強い上の梢の方から落葉が始まる。同じ一本の樹にも太陽との距離の遠近や、風当たりの強弱があることを紅葉がさり気なく教えている。 

 夙川添いに河口まで来ると、潮戻るときに出会う。水の流れがどちらを向いていようと、ユリカモメもカルガモも意に介さず静かに群れ、浮かんでいる。                 

 入り日が、暗緑色の湾にオレンジ色の光を反射させて眩しい。幼い頃、ガラスでできた石けりに使う文鎮のようなものを持っていた。青緑のガラスの土台にオレンジ色が流れるように混じっていて、丸く滑りの良い形になっていた。5歳前後の私が、姉たちと互角で石蹴りができていたかどうかは怪しいが、ガラスの小さな円盤のひんやりした感触と、輪郭がはっきりしないグラデーションの色彩が気に入って、私の宝物になっていた。 

 家に帰り着いて南側の海に面したガラス戸のカーテンを引くときが、一日で最も美しい時間帯である。夕映えが空全体に広がり、海にも映っている。季節の移ろいと一日の時の流れが一瞬止まり、沈む太陽を中心にして空間が大きく放射線状に拡がりをみせる。毎年この夕映えに全身を洗われて師走を迎えている。