ひとのあかし

 一月の終わり、たてつづけにアーサー・ビナード氏がプロデュースされた2冊の本に出会った。ひとつは「ここが家だ~ベン・シャーンの第五福竜丸」絵 ベン・シャーン・構成 アーサー・ビナードという第12回日本絵本賞を獲得した絵本(集英社)。もうひとつは、「ひとのあかし」という日英対訳詩集。若松丈太郎詩、アーサー・ビナード英訳(清流社)である。

 どちらも読後、このまま本を置いてその場から立ち去ることは難しいと思わせる本であった。今日はこの1月27日に初版が発行されたばかりの「ひとのあかし」について。

 若松丈太郎さんは福島の高校教師をしながら詩を書いていた。ずっと福島の北泉海岸を見つめ、福島原発の生き物への影響を観察し警告し続けてきた。チェルノブイリにも訪れた。そこで観たものが「神隠しされた街」という詩になり1994年に発表されている。そして本書にも収められている。これは今の福島ではないか!本の帯には「フクシマで起きていることをすべて18年も前に見通して歌った詩人がここにいる。」とあった。

 しかしこの「神隠しされた街」の凄さは、そのセンセーショナルな予言性だけではない。チェルノブイリ原発近くのプリピャチ市で、チェルノブイリ事故後のラジオの避難警報直前までたしかにあったものを温もりのある姿として浮き彫りにしている。樹々に囲まれ、虫や鳥たちのいる街の風景のなかで聴こえていた「鬼ごっこする子どもたちの歓声」「隣人との垣根越しのあいさつ」「郵便配達夫の自転車のベルの音」・・・、ごくあたりまえにあった生活をそこから発する音で再現してみせることで、それらのひとつひとつがかけがえのない「ひとのあかし」ではないかと問いかけている。

 アーサー・ビナード氏の英訳がまたいい。これはただの翻訳ではない。ペンの先から氏の魂が伝わる。是非友人知人にもお勧めしたい一冊である。

 

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コメント: 2
  • #1

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