朝台所で食器を洗っていると、ラジオから平原綾香の歌声が聴こえてきた。スローバラードの静かで優しい調べである。水道の水を止めて歌詞に耳を傾ける。
だれかに あいたくて
なにかに あいたくて
生まれてきたー
そんな気がするのだけれど
それが だれなのか なになのか
あえるのは いつなのかー
おつかいの とちゅうで
迷ってしまった子どもみたい
とほうに くれている
それでも 手のなかに
みえないことづけを
にぎりしめているような気がするから
それを手わたさなくちゃ
だから
あいたくて
* * * * * *
なんだか懐かしいその詩は、工藤直子作『あいたくて』であった。
梅田に出たついでにタワーレコードに寄り、その曲が入っている 平原綾香の最新CDアルバム『ドキッ!』を衝動買いしてしまう。タワーレコードで、クラシック以外のCDを買うことは初めてだったかもしれない。ちょうど若い友人が夕飯を食べに来てくれる日であった。わたしの朗読CD『旅立ち』をプレゼントしたら「あれはよく眠れる。エンヤの歌より寝られる!だから最後までまだ聴いたことがない。」と言ってくれた人だ。そのことばはなんだかとても嬉しかった。「もしかして彼女がこの平原綾香のCDを気に入るかもしれない。」とその人のことが一瞬過ぎった。後で聞くと不思議なことに、彼女は同じ頃ツタヤでその『ドキッ!』という名のCDに心惹かれたという。この世はたくさんのであいに満ちている。
もうすぐ4月がやってくる。2年前担任していた特別支援学級で、4月には工藤直子作『のはらうた』のあげはゆりこの詩「はなのみち」を取り上げた。 子どもたちは、登校するなり蜜柑の木の葉に産み付けられたアゲハの卵を探しに裏庭に飛んで行っていた。たくさんのアゲハが次々教室から巣立った。
5月には田植えの応援に帰省した同僚が、たくさんのトノサマガエルやアマガエルを連れて帰ってくれた。かえるたくお作「ピンときた!」の詩を6月に子どもたちと味わうためだ。暗くなってからも、ご高齢の母上と懐中電灯をかざして水田の中でカエルを捜してくれたそうだ。
たくさんの人や生き物にであい支えられて、子どもたちもわたしも育てていただいていた。
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