仲秋の夕べ~詩の朗読と音楽で楽しむコンサート~

 今年の9月は、今までにない大きな出来事がたくさんあった。中でも吟遊詩人社として一番大きなイベントが、9月21日岡山であった「仲秋の夕べ」~詩の朗読と音楽で楽しむ芸術の秋オータムコンサート~である。ここで自作の詩の朗読をはさむコラボをさせて頂いた。

 

 早島町は、畳表の藺草で栄えた人口12000人の小さな町である。この町には、旧家から寄贈された立派な古民家を文化交流の場として再生させている「いかしの舎(いかしのや)」と、550名の収容能力のある県下有数のコンサートホール「ゆるびの舎(ゆるびのや)」があり、どちらも地元に独自の文化を根づかせるセンターとして活用されている。

 

 今回はいかしの舎で、上記の演奏会があった。コンサートが始まるまでのひととき、お客様方は縁側に飾られたススキや桔梗、お供え団子などを眺めながら小野宗生氏とその一門の方の呈茶でほっと一息ついておられた。耳だけではなく、眼や舌でも味わうコンサートでもあった。観客は120名以上来られていたそうだ。岡山の小さな町でこのような企画があり、地元の人々がたくさん集まって来られるのは、そこに至る地道な積み重ねあってのことであろう。

 

 コンサートの演目は、有名なドボルザークの「アメリカ」である。曲の演奏は、倉敷アカデミーアンサンブルの生え抜きの若手で構成されている弦楽四重奏団「クァルテットKURASHIKI」の4名である。

 最年少のメンバーは、高校3年生のセカンドヴァイオリンの佐々木綾さんだ。中学・高校と山陽学生コンクールに優勝、KOBE国際音楽コンクール弦楽器部門奨励賞を獲得している。他のメンバーも同じ賞をとっていたりするが、ただ技術面に恵まれているだけでなく、桐朋学園大学の4回生で、サイトウ・キネン・フェスティバル松本や、アルゲリッチ音楽祭に出演しているチェリスト江島直之さん、ドイツのユーロ・ミュージックフェスティバルに参加しているファーストヴァイオリンの仁熊美鈴さん、国際的ヴィオリスト今井信子の率いるヴィオラスペース2010で共演している景山奏さん・・・というように、恵まれた音楽環境で経験を積んでいる人たちである。

 何より演奏が楽しくてしかたないという彼らの練習ぶりは、おおいに刺激になりエネルギーを頂いた。リハーサルの何時間も前から来て練習している彼らの音に合わせて別室でわたしも朗読練習していたのだが、不思議な乗り物に乗せてもらったように軽やかに心地よく声がでた。又詩の朗読とのコラボという、新しいものを受け入れ吸収することができる彼らの柔軟性と研ぎ澄まされた勘の働きがとても気持ち良かった。ファーストヴァイオリンの仁熊さんは、「曲のイメージを創るのに、詩があることで助けられました。」と言ってくれた。

 

 わたしは、このコンサートのために、4篇の詩からなる『ドヴォルザーク「アメリカ」に寄せる連詩 たいせつなものへ』を 書き下ろした。

 第一章 始まりの空

 第二章 今もそこにいる

 第三章 鳥祭り

 第四章 歳月

 という構成である。

 

 ドヴォルザークがこの曲を作る時、彼の胸には故郷チェコの雄大な風景がひろがっていたに違いない。アメリカに移住した彼にとり、<故郷喪失>ということがどれだけ大きな心の問題になっていたかと思う。故郷とそこで暮らしていた生活の何もかもを失わざるを得なかった福島のひとたちのことが、<故郷喪失>のテーマにどうしても重なってしまう。わたしにはチェコの風景は浮かばないが、私にとっての故郷、心の支えとなる風景を詩のなかに描いた。

 そして、太陽系第三惑星のこの地球で、自然に育まれ支えられて生きてきたことに気づいた<わたし>が、自然を裏切らずに自然と共生する道を探りはじめるところで詩は終わっている。

 リハーサルを聴いてくださっていたある女性が、「この詩は宇宙的規模で書かれていて、しかも大切にしている故郷の ことが心に染みて涙がでました。」と話かけてきてくださった。やはりフクシマを想ってくださったそうだ。

 

 「また是非このようなコラボの機会を持ちたいです!」と音楽への情熱を大切に育んでいる清潔なアーティストたちは終了後言ってくれた。「ベートーヴェンのラズモフスキーでコラボするんだったら1番がいい!」と、繊細で艶やかな音を響かせるチェリストは言った。これからますます多忙になるはずの彼らと、いつか再び共演できるように、からだも声も心もしなやかに保っていたい。 

 

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コメント: 2
  • #1

    TE-2 (水曜日, 10 10月 2012 11:42)

    素晴らしい演奏会でしたと、あれからも声をかけられます。
    いかしの舎の雰囲気とベストマッチしていましたね。
    今後もご活躍ください。また岡山でできる日を楽しみに
    しております。

  • #2

    望月です (水曜日, 10 10月 2012 12:56)

     当日は、大変お世話になりました。幼いころから弦楽器に親しむことができる<倉敷ジュニア・アンサンブル>があり、町の人たちが気軽に音楽を演奏できる<アンサンブル早島>があるという恵まれた土壌があってのあのコンサートでしたね。地元に音楽の種をまき、大切に育てておられる江島先生ご夫妻のご功績の凄さを身をもって感じさせて頂いた一日でした。
     このような音楽の町が日本中にあるといいですね。