父が逝って来年で35年になる。62歳の早い旅立ちであった。今の私の年である。34歳だった父が、生まれて間もない私に最初にくれたものは、名前である。私の臍の緒が入っている桐の箱の裏に、午後8時50分に生まれたことが記されている。父が3キログラムの末娘につけた名前は曜子。曜という字は、<天体の光の総て>という意味をもつらしい。「天体といっても夜生まれたので、月や星の光限定かな?」とずっと思ってきた。ちなみに姉は明け方に生まれたので暁の子と書いて暁子である。「太陽の光は、姉に任せておこう。」と棲み分け意識が働いていたのか、私は遠くから眺める夜の光の子だとずっと自分で思い込んでいた。
小学校に入った頃、父が時おり話してくれたのは、遠い銀河の話であった。家族が他にいるときはそのような話は一切しなかった父だが、二人で夜空を見ながら最明寺川という猪名川の支流の辺を歩いているときなど、「こうして目に見えているのは 太陽系の宇宙だけれど、ほんとうはまだまだ気が遠くなるほど広い世界が拡がっているんだ。」というような話を何度か聴いたように思う。
父が新婚の妻に最初にプレゼントしたのが、宮沢賢治の童話の本だと母から聞いたことがある。戦時中のことだが、母とのあいだにどのようなときをもとうとしていたのか、その限られた情報から推測するしかない。両親とも、もうこちらにいないのだから。
両親が私にくれたものは、命とたった一人の姉。父がくれたのは曜子という名前と夜空を見上げる習慣。あらためて二人に感謝し、新年を前に姉と実家の大掃除をした。
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kyoko (水曜日, 09 1月 2013 10:20)
お父様は詩人の心を持った人だったようですね。そのDNAをあなたが受け継いだのでしょう。「曜」がこんな素敵な意味を持っているなんて全く知りませんでした。いつもブログで心温まります。ありがとう。
曜子 (月曜日, 14 1月 2013 22:29)
いつもご愛読ありがとうございます。月・火星・水星・木星・金星・土星そして日は太陽?欲張りな名前で、今更ながらちょっと恥ずかしい。