シズヨさんの紫陽花

　今年もシズヨさんの紫陽花が、ベランダで咲いていた。３年前母が亡くなってしばらくしてから、シズヨさんはそっとこの紫陽花の鉢を届けてくれた。その後毎年紫陽花が花芽をつけ、花を咲かせる過程を楽しみながら、シズヨさんのあのときのさりげないサポートや花に託されたエールに感謝している。

　シズヨさんと出会ってから、かれこれ40年の歳月が流れた。音楽のこと、文学のこと、にんげんのこと・・・。シズヨさんと居ると話題がつきない。一年に一度くらいしか会わないのに、会うとそのときそれぞれの胸に最も強く生きている話題が自然にでてくる。

　ついこの前まで、シズヨさんはお連れ合いの看病をされていたし、数年前までは、どちらも親の世代の介護に明け暮れていた。病院の帰りに夜空を見上げて、＜今夜の星情報＞を携帯電話で送信しあい、先が見えない心細い季節を越えたこともある。三日月の端に木星がブランコでぶら下がっているような位置関係を発見したら、それはわたしたちのビッグニュースであった。

　今シズヨさんの紫陽花は、終わり支度をはじめている。今朝は「今年もありがとう」と声をかけて水をやった。